薊岳で道を間違えた日
朝は予定より30分早く出ました。それでも途中で一度道を間違えてしまって、結局登山口に着いたのは10時頃になっていました。少しだけ焦りはあったはずなのに、その時の自分は思ったよりも落ち着いていて、ただ「遅れたな」と事実だけを受け止めていた気がします。
登り始めてから、最初に少し困りました。もともと考えていたルートの入り口が見つからなかったんです。道らしい道も見えず、案内の標識も特に見当たらなくて、しばらく周りを見ながら探してみましたが、それでも確信が持てるものがありませんでした。最終的に、帰りのルートから逆に登ることにしました。
出発が遅れた分、少しだけペースを上げて歩いていました。普段は一緒に行く人との距離をあまり変えないようにしているんですが、その日は少し間隔をあけて、自分が前を引っ張るような形で歩いていました。
登りの道はかなり急で、ずっと沢に沿って進んでいきました。水の音が近くにあって、滝の音と鳥の声が混ざり合っていて、少し賑やかなのに不思議と落ち着く感じがしました。水がとてもきれいで、何度も「入りたいな」と思いながら歩いていました。
途中で一度、はっきりと道を間違えました。本来は滝を横切って山道に戻るところで、そのまま滝を登るような方向に入ってしまったんです。小さな踏み跡はあったので少し進んでしまいましたが、傾斜もきつくなって、手を使わないと登れないような場所になっていきました。
それでもすぐには引き返さなかったのは、「このまま行けるかもしれない」と思いたかったからだと思います。ただ、ピンクのテープが見えなくなって、踏み跡も消えたところで、やっと戻る判断をしました。結果的に20分ほどロスしましたが、戻ってみると本来の道は驚くほど歩きやすく感じました。
最初のピークである前山に着いたのは、だいたい1時間後くらいでした。その時点で時間は遅れていたので、予定に入れていた明神岳には行かず、そのまま薊岳に向かうことにしました。お昼もとらずに進むことにして、その場でいくつかの選択を削っていきました。
最終的には薊岳と薊岳雌岳だけにして、小屋ノ尾ノ頭もスキップして下山することにしました。全部をやり切ることよりも、今の状況に合わせて無理なく戻ることのほうが大事だと、その時は自然に思えました。
下りはずっと楽で、ひたすら降りていくだけでした。ただ、一緒に行った人が途中で膝を痛めてしまって、ペースがかなりゆっくりになりました。時間を確認するとまだ余裕があったので、その日は無理に急がず、相手のペースに合わせて歩くことにしました。
最終的に下山したのは16時15分で、計画より15分ほど遅れただけでした。途中でルートを変えたり、いくつかのピークを諦めたりしたわりには、大きく崩れなかったなと思いました。あらかじめ全体の流れを考えていたからこそ、その場で調整するのも難しくなかったのかもしれません。
下山後、沢のところで少しだけ休みました。靴とザックを外して足を水につけた瞬間、あまりの冷たさに思わず引っ込めてしまいました。氷みたいな冷たさで、正直かなりきつかったです。
それでも、もう一回だけと思って、また足を入れてみました。すぐに引っ込めるんですが、なぜかそれを何回か繰り返してしまいました。
その日は、無理はしないけど、完全にやめるわけでもなくて、できる範囲で関わり続ける感じでした。計画通りではなかったですが、自分なりに判断して調整しながら、最後までいきました。